Charlotte Weekly 1997.01.19.号 通巻 第25号

本音と建前の手前

今週は、米国での本音と建前について、ご報告致します。
これは、第18号でお送りしました「米国の母は強し」の中で、米国人は 「家族としてのまとまり」が強く、「その中で楽しそうに振る舞う」という ご報告をしました。それなのに、現実に米国では離婚率は高いですし、家庭内 暴力も少なくないようです。
読者の方々からも、離婚率が高いのと「楽しそうに振る舞える」因果関係は どうなっているのかとか、はてまた、「離婚は本当に不幸ですか」という お尋ねまでいただきました。これはGood Questionですので、今回は、 少ない情報をもとに、大胆な推察をお送りしたいと思います。

まず、米国は「決められたこと」は、きちんと守る社会です。ただし、決める 前にはいろいろな意見を言う機会や、議論があり、決められたら、それ以後は ルールを守ります。そのルールは一人一人が、自分で責任を持ち、実行します。 当たり前ですが。そして、その成果のチェックのシステムを同時に持ちます。

例えば、シートベルトなどはわかりやすい例ではないかと思います。Charlotte でのシートベルト着用率は普通の道路で80%位です。これは、街中に掲示板が あり、そこに、今週の着用率と、過去の最高記録が載っていて、運転者に注意 を喚起します。着用率が高いのは、自分の身を守るという視点が一番大きな 要因でしょうが、とても高い数字だと思います。それも、運転者以外にも、 同乗者もシートベルトを締めるのですから。いろいろな議論の途中には、関連 するデータが提出されますので、一般の人にも、いろいろな事実が公開される わけです。シートベルトの例では、どれだけ死亡率が低減したか、部品コスト はどれぐらい増加するか、社会コストはどのくらい下がるか、まで、新聞や TV、雑誌などで、具体的な例も合わせて説明されたようです。最近の日本の 状況は良く分かりませんが、以前日本では、「何故こんなめんどくさいことを させるんだ」とか「シートベルトなんかしてやらない」とかいう意見があって、 普通道路では着用率は30%位ではないかと思いました。現状は変わってきてい るのかもしれませんが、本来、自分の身を守ることに関するルールであるのに、 それを受け入れる態度の差に、大きな意識のギャップを感じました。

つぎは、決められたことに対してそれを守らないと、不利になる社会システム ができています。これは、法律による罰則から、事故発生時に保険会社から、 支払われる補償額が、ルールを守らない結果の場合には、減額されるとか、 いろいろあります。機能的に動くルールを作るのは、政府の大きな仕事の一つ です。最近の動きとしては、新技術の導入にいろいろと工夫が見られます。

いくつかの例をご紹介します。まず、電力会社のエネルギー源の転換について、 政府の方針が出されていて、考え方がとても面白いので、ご説明します。 米国は太陽電池や風力による発電を利用して、電力源の転換を図ろうとして います。その転換を図るために、新技術による電力を、既存の電力会社に買い 取らせて、技術革新を図っています。当然、新技術の設備投資や研究開発費 など、初期の負担は大きく、そんなに安い電力にはなっていません。電力会社 だけに任せたのでは、今の技術の方が安いのですから、現在の電力会社頼みで は、簡単には新技術には転換しません。
しかも、新技術でできた電力は、売れなければ事業も発展させられませんし政府 の目標も達成されませんから、こんな場合には、政府が指導をします。 そのルールは、この分野から電気会社に電力を買わせるとき、電気会社に一番 高い自社コストで買わせています。 その論理はこうなります。今後新規に電力会社が電力設備を増設してゆくには、 「今まで以上にコストがかかる」だから電力会社は「自社内での一番高いコス トで購入したとしても理に(利に?)かなう」というものです。これにより、 電力分野にも新たな事業者が参入して、活性化されました。これなど、採算性の 悪い新規事業の立ち上げ方、既存ビジネスへの導入、消費者保護、環境保護の いずれを見ても、バランス良く動ける指導になっていると思えます。
これは、通信業界への「指導」でもありました。昨年、通信法が改正され、 既存の電話会社以外の新規参入を加速するルールが制定されました。これも 同じような新規ビジネス立ち上げの手法になっていました。
これらは政府の方針に合わせた業界への介入指導です。政府の目標に合わせて、 市場原理で「競争しろ」という、介入を図るわけです。方針が、「建前」の通達だけ には終わっていません。

では、そのルールあるいは、実際が不都合だったら、どうなるでしょうか。 これは、マスコミが騒ぐ場合が多いようです。昨年の、O.J. シンプソン裁判 の判決結果に対しては、個人もマスコミも黙っていなくて、現在は再審へと 動いているようです。このO.J.の例が適当かどうか良く分かりませんが、 こちらの人は判決に対する「自分の考え」を「論理的に」話します。 これは、 学校や家庭で「自分の意見を述べなさい」という機会が多くて、訓練されてきた 結果です。それは、とりもなおさず、社会全体がそのように説明できることを 中心に動いていることの表れです。これは、「建前」を通す社会のあらわれです。 ここが、米国社会の本質なのかも知れません。

そうすると、プライベートな事柄も、論理的に考えます。
まず、「自分がどう ありたいか(思うか)」「現状(事実)はどうか」「なぜ、そうなのか。 その理由は」「そしてその結果、何をどうするのか」ということになります。 その中にことばを当てはめると、これがそのまま、建前の思考構造になります。

では、この論理を個人の「本音」に当てはめて考えてみます。 まず、「自分は幸福になりたい」というところから始まります。米国の人は、 人生の目標は「自分の幸福」を上げる人が一番多いです。そこから考えると、 もし現在、幸福と感じられていないとすると現状認識は「幸福でない」となり ます。つぎに、それぞれの人毎に「その理由の数々」が集められ、最後に 「では結論!」となり、「具体的な行動」へとつながります。 それが人によっては離婚であったりするわけです。
ですから、米国での離婚は、個人として幸福になりたいための結果です。 (日本も考え方は同じ、だとは思いますが、イメージが少し違う感じです)

では、今の論理を、現在「幸福」である「現実」を持った人のところに当て はめてみると、次のようになります。
「私は、幸福になりたい」、「私の現実は、幸福」、「その理由は、これこれ、 しかじか…」、「だから、自分の幸福を外に向けて表現する」となるわけです。 その結果の振る舞いが、私のように外から見ている人にも「幸福そうな家庭 だなー」と見えるわけです。

個人レベルでは、もし問題があれば、行動して「離婚」とか済ませているので、 今は「自分で納得できる」状態にある人たちが多いわけです。
離婚率の数字は確かに高いのですが、結論から行動までが早いので、いつも 「自分の幸福」を目指す姿勢は変わらないわけです。言い換えると、半端な 時間をじっと耐えて過ごすような人は少ないので、上に述べたような現実に つながっていると思います。社会の考え方も、それを認めていますし、サポー トも求められます。そんな意味で前向きに進みやすい社会だと思います。 これは、離婚だけでなく、会社を替わるときも同じ思考形態です。
「自分の幸福」に合わなければ「自分が幸福になれる会社」を探すわけです。 もちろん、会社から辞めさせられることもありますが、それでも自分なりに、 幸せを見つける手段にします。極端には、「自分で思い通りの会社を作ろう」 とさえ行動します。この場合の幸福の中味は「事業内容」であったり「お金」 であったりするわけです。こうした、本音の部分でかなりの人は動いている わけで、それが論理的に説明されると、建前と本音が同一のように聞こえて きます。

しかし、やはり建前と本音の乖離は一部では明確に起こっておりまして、その 端的な例は交通ルールです。例えば制限スピードについていえば、標識の数字 をオーバーして走っている車も多いですし、アルコール運転は法律で禁止され、 事故を起こせば重罰ですがそれでも、飲酒運転の事故は多いです。
ですから、人々はそれぞれ自分なりに折り合いをつけて、自分のリスクで 「本音」のところは動いています。人間の生活ですから、論理だけで割り切る ことはできません。この部分は裏の「本音」部分だと言えます。

それを「他人も」また「自分も」納得させるべく考えながら行動しているのが、 米国社会の表の「建前」部分だと思います。ですから、シンプルで論理的 という側面から、個人の行動を見ることが、こちらの実態を正確に把握すること になります。そうすると、離婚に関しては、数字は大きいですが、それが そのまま「幸福でない」状態ではなく、次の幸福に向かった数字と読み取ること がポイントではないかと思います。ご意見お待ちします。


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