Charlotte Weekly 1997.05.05.号 通巻 第40号
タイガー・ウッズの話
今週は、今年のマスターズでぶっちぎりの成績で史上最年少優勝した、タイガ ー・ウッズについてご報告します。ゴルフが苦痛で、こんな恵まれたゴルフ環境 も使いこなさない私が、なぜこんなレポートをする事になるのか、ともかく ご一読下さい。
−天才タイガー・ウッズ−
実は、このレポートを書く動機になったのは、マスターズの最終日に、ABCTV だったと思いますが、最終ラウンドの放送の前に「わが息子タイガー・ウッズ」
という特集を見てしまって、これはぜひとも、何らかの文章を残しておかなけれ
ばいけないと思い込んだからです。彼は6才の時にすでに「ゴルフ界のアマデウ
ス」と呼ばれていたそうです。そうです、アマデウスはあの「神童モーツァルト」
の称号です。私はこれを聞いた時「これは要チェック!」と考えました。
なぜなら、アマデウスは「そんなにやたらに使ってもらっては困る」称号だから
です。この思い込みとは別にして、話をタイガー・ウッズに戻しましょう。
彼は、お父さんはアフリカ系アメリカ人、お母さんはタイ人です。
その彼が、アマデウスと呼ばれた6才の時に、マスターズで優勝していたのが
ジャック・ニクラウスです。今から15年前の事です。そのニクラウスも、 今年のマスターズの最終ラウンドに残っているのですから、ニクラウスもすごい
ものです。
タイガーウッズは、その優れた才能を優れたコーチに見出され、スタンフォード
大学に進み、実に順調にアマチュアのゴルフ選手権で優勝を重ねて行きます。
それでも、プロの道は厳しく、昨年のマスターズでは、振るいませんでした。
しかしです、今年は素晴らしい成績で、優勝しました。でも、彼はそれだけで
終わってしまうような人間ではなさそうです。
−集中力のすごさ−
この間のPhoenixオープンとう試合で、タイガー・ウッズはホールインワンを 経験しました。しかし、彼はティーグラウンドからグリーンまで歩いている間は
観客の熱狂的歓声が耳に届かなかったそうです。その点から、彼はプレーに ものすごく集中できている事が分かります。
それはマスターズでも同じで、ショットの時とパットの時の集中力はご覧になっ
た方にはお分かりいただけると思います。
彼の、成長の影には父親の暖かく厳しい指導と判断がありました。もちろん、
ゴルフは「白人」のスポーツですからそのハンディもずいぶんと大きかったので
はないかと想像します。それらを乗り越えての偉業達成ですから、親子ともども
感激はひとしおであったと思います。
−彼がしている事−
そのような彼は、実はいま財団を運営しています。それは、彼と同じ肌の色の
ゴルフに才能がある子供たちに、彼が指導するゴルフの練習の機会を与える事や、
試合の観戦に招待する事などです。かれは、忙しい中時間を割いてそのような
事にも積極的に関わってゆきます。それは自分のできる事を、自分で果たす という、自律の精神に近いように見えました。「私はこれこれの事ができる」
だから「これこれの事をする」という非常にシンプルな発想とも重なって見えま
す。しかも、どんなに端からみて素晴らしい人であっても、あくまでも「一人の
人間として」「子供たちに教える」という道を選んでいるわけです。
−それ以外の人たちも−
財団で思い出しましたが、NY在住のバイオリニストの五島みどりさんも、自分
でできる事を、財団を通じていろいろとやっています。特に、音楽環境に恵まれ
ない人たちへの演奏活動は、日本も含めて世界中でずいぶん行われています。
聞くところによると、演奏活動の半分近くがこのような「ボランタリー」活動に
なっているそうです。それ以外の人でも、人知れず行われている活動は多いらし
く、「個人としてほかの人に貢献できる事」を積極的に実践している人はずいぶ
ん多いようです。
このような人たちの背後にいるのが、どうやらコンサルタントと呼ばれる人や、
アドバイザーといわれる人のようです。彼ら(彼女ら)は、すぐれた人たちに、
ほかの人々の成長に手を貸すようなアイデアを提供し、そしてそれが、社会的な
名誉や価値に反映できるように提案します。それが、タイガー・ウッズや五島
みどりの活動に付け加えられるわけです。
−社会的な評価は−
あの、ジャック・ニクラウスもこれからはタイガー・ウッズの時代であると はっきりと言っていました。実力で認められ、社会的にもそれなりの評価を受け、
大きなスポンサーもつきました。(NIKEやTitlistです)
NIKEはTVのコマーシャルで、タイガー・ウッズの活躍をCMで流した後、 NIKEのロゴを出して、次のようなメッセージを流しました。
「僕は確かにチャンピオンにはなれた。しかし、今でも僕が入る事のできない
ゴルフコースもあるんだ」と。これが本当にCMなのでしょうか。
私は、これを見た時に「表現の自由」と「いつも主張を忘れない」米国の特質を
見たような気がしました。何か「いびつ」なものを感じながらも、それを忘れず
機会ある度に、常に訴えかけてゆくのが米国のやり方です。特に、平等を謳いな
がらも、現実との距離を決して忘れないし、それを再び問題提起する国民性は、
すごいと思います。この事で、CMが単なる商品のメッセージではなく、会社の
存在意義にまで踏み込んでいる事が分かると思います。
−普通の人の貢献−
では、ごく普通の人たちの貢献はどうでしょうか。
May I help you?はごく普通の会話で成り立ちますし、私自身、道に迷っている
時に、近くの人に道を尋ねると、親切に教えてくれます。(親切そうな人を探す
ようにはしていますが)ある時などお礼を言うと、「それも俺の仕事のうちさ」
=It's my business.という返事が返ってきました。自分でできる事を一人一人
がやる事で、実は多くの快適さを実感したり、社会コストの低減すら可能になる
のではないかと思います。一人一人が「自分」でできる事からはじめる、それは
社会の人間インフラとも呼ぶべき、重要な構成要素になるのだと思います。 個人主義といわれる米国での社会では、それをとことんおしすすめて、では個人
の限界にたどり着いたらどうなるかまで含まれているのではないかと思う事が
あります。具体的には、それぞれの個性の人をその個性を生かしながら、成長さ
せて行くという考え方です。ですから個人主義が徹底した社会という割には、
意外な協力体制が細かく張り巡らされているというのが、住んでみての実感です。
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