Charlotte Weekly 1997.02.23.号 通巻 第30号
米国人と映画 その2
前回は、米国人がいかに映画が好きかということをご報告しました。それでは、 それを支えている社会的、歴史的、文化的な背景と、最近著しい、技術的な 進歩について、ご報告いたします。
確かに、米国には映画が好きな人が多いのですが、その背景はどうなっている
でしょうか。映画の歴史はとても新しくて、今世紀の初頭からの技術です。 ご承知のように、無声映画から始まり、現在と同じ動画としての映画は
1920年代から作られるようになりました。当時から、Hollywoodはスターを 生み出し、そのころはチャールズ・チャップリンやメアリー・ピックフォード
とか、ダグラス・フェアバンクといった(後の2名は私も知りませんでしたが)
名前が、大スターとして取り扱われていたようです。
Comptonという百科事典では、米国には貴族制度や、王室制度がなかったが、 スターの序列がそれに等しく取り扱われ始めたとまで書かれています。
ちなみに、1926年に31歳の若さで亡くなった、ルドルフ・バレンチノという 映画スターは、遺骸の収められたニューヨークの一角に、別れを惜しむファン
の行列が11ブロックもつながったという記録があるようです。確かに、映画 スターに対する扱いは、あのCNNでもニュースの中に入れるのですから、
社会的に大きく認められる地位にあることは間違いないでしょう。それも映画
というものができたはじめから、そのよう扱われていたということですから、
マスメディアというのは大きな力を持つわけです。ただ、スターに着目する のは、世界中変わらないのではないかと思っていますが。
では、そのような文化的、社会的背景をもとに、映画はどのように成長して きたのでしょうか。これが、現在のメディアの流れを知る上で、とても重要に なります。これは、エンターテイメントという、米国文化を基盤にしたと言え ます。1920年代に始まった映画も、現在のわれわれには当たり前と思う ズームアップの手法や、背景にすべてを並べて見せるスペクタキュラーなる 手法も、製作者の試行錯誤を重ねて、地歩を確立するには、20年近くかかり ました。カラー映画の技術の確立も、やはりその間になされました。
有名なクラーク・ゲーブルとビビアン・リーの名作「風と共に去りぬ」という 映画は1939年の作品で、ディズニーのアニメ「白雪姫と七人の小人」が1937 年の製作です。このほかにもディズニーの「ファンタジア」が1940年、 オーソン・ウェルズの「市民ケーン」が1941年ですから、映画を作る技術は、 第二次大戦以前に、すごいレベルにまで達していたわけです。
しかし、現在では活気のある映画産業も、1960年代の半ばには行き詰まって
いたと言います。それは、米国のベトナム戦争の影響で人々は、映画館よりも
TVを見るようになり、そして客は入らず、経営も苦しくなりました。 しかし1967年のスタンリー・キューブリックとアーサー・ペンの作品、
「ボニーとクライド」から、アメリカンニューシネマに方向性が出てきたと いわれています。その後は「ゴッド・ファーザー」とか、「スター・ウォーズ」
とか、われわれにもなじみのある映画が、出てきています。
この時に、映画会社の取った経営方針は3つありまして、一つはTVではでき ないことをやると言うこと。次には、あらゆるチャンネルに映画を流し、
そこから、収益をあげると言うこと、そして、最後は、家族で楽しめる様に 健全性を持たせた映画を作り上げると言うことです。
ビデオデッキの普及や、TV会社への配給などで、映画会社は、ずいぶんと 収益が改善されました。そして、現在では「ハイテク」と「著作権」は ハリウッドにありと言うことになりました。今年のお正月は、フロリダの ユニバーサルスタジオとディズニーワールドのMGMスタジオに遊びに行き ました。そこにあるのは、良く考えると、映画の撮影に使ったセットではあり ませんか。それも「大地震」とかで使ったものを見ているわけです。 われわれは、それなりにそうした、エンターテイメントの一部を「体感」して、 「楽しかった!」「また行きたいね」などと満足しているわけです が、もう、これらの遊戯技術は、古くなってしまったようです。
ご承知のように、最近の映画はコンピューターグラフィックスを使っていまし
て、現実にはありえないようなことを、画像で処理することができます。 最近では、「トイストーリー」とか「ツイスター」、「インデペンデンス・
デー」と言うような映画がそれに該当します。そういった映画には、おなじみ
のディズニープロダクションや、あの、アップルを作った「スティーブ・ ジョブス」そしてスピルバーグの名前があがってきます。依然として彼らは
自分の仕事を、元気に、着実にこなしているのです。
映画は、もはやロケだけでなく、アイデアがあれば撮影不可能なことも、映像
にしてしまいます。その中に「ハイテク」があり、「著作権」が価値を持って
存在しているわけです。そのハイテクも一部はパソコンの世界まで来ていまし
て、最近注目されている、デジタル画像処理の加工ソフトは、映画用の技術が
転用されているようです。「著作権」についての、ハリウッドの姿勢は、 とても政略的です。創造した作品をいかに「価値」を増やして、世界に配布し
て行くかと言うことに、神経をとがらせています。ですから、日本のハイテク
新商品である「DVD」ディスクというものに対しても、簡単には切り替えを しそうにありません。これは、作品の価値は「映画」の中味であって、それを
映し出すツールにはないということを、主張しているため、簡単には切り替わ
らないわけです。これが、映画と言う、付加価値ビジネスでの、ハリウッドの
態度です。ハイテクも付加価値のつくものには、大きな投資もしますが、 ツールを切り替えることが、大きな価値を生みだすと言うことが言えないと、
せっかくの技術は、使われないのです。ここにも、米国の産業界の80年代 からの戦略転換である「情報」は一つの産業であるという位置づけを読み取る
ことができます。
前回ご報告しました映画館の入場料に関しては、先日日本の新聞に、世界の 映画館入場料の比較が出ていてました。そこには、世界の平均は6.5ドルと 出ていました。日本では一人1500円とかしますから、家族連れ見に行くと しても、まとまると馬鹿にならない金額です。もし、1$=125円としても映画 が世界水準位まで安くなったら、もっと日本人も映画を見るだろうし、人々の 楽しみ方も、変化するのではないかと思いました。映画が、安い娯楽である というのも米国で人気のある一つの、大きな理由なのかも知れません。 また、映画はハリウッドだけでは当然論じられませんが、とりあえずは、ハリ ウッドの話で進めて行きます。インドや香港、ロシアなどが、最近では映画の 製作本数や、質で高く評価されているようです。
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