Charlotte Weekly 1997.04.13.号 通巻 第37号
家は一生の買い物?いえ、一生買うもの!
今週は、米国での「家」がどのように生活の中で取り扱われているかについて、 ご報告します。私は、現在新興住宅地の、一戸建てを借りて住んでいます。 正直言って、一戸建ての価格と広さと使い勝手は、日本で私が住んでいたところ (借家でしたが)と比べると、えらく違います。周りの人を見ると、それぞれが 必要に応じて、家を購入している事がわかります。どうやら、一生に一度の買い 物ではなく、必要性と生活のレベルに合わせて、選択、移動をしているようです。 具体的な内容を、実際の例を引きながら、ご報告したいと思います。
−移動を苦にしない民族−
米国に来て思うのは、自分の目的に合わせて、住む場所を変える事を、苦にしな
い人々が多いという実感です。これは、西部開拓時代をのあのパイオニア精神を
考えると、その伝統が今でも、生き続けているという感じがします。一度、コロラド州で西部開拓者達が、ロッキー山脈を幌馬車で超えた時の「わだちの跡」を
見せてもらった事があります。今から150年以上前のわだちが残っていること も、さる事ながら、そのわだちの先には、ただ何も無い4000メートルを超える
山々と、その先にまた何も無い平原が見えるだけでした。あの向こうに「ゴール
ドがある」と信じるだけで果てしの無い世界に乗り出した人の「行動力」と 「想像力」に不思議な感動を覚えた事があります。
私の周りにいた、ノースカロライナに住んでいた人たちを例にとってみても、 会社で秘書の仕事をしてお金を貯めてカリフォルニアの大学に行った人や、家で やはり家庭教師をしながら、シカゴの大学に通う人など、「自分のしたい事」に 合わせて「住む場所」を変えます。それも、したい事のためには大学を移るのも、 簡単に行われますし、単位の取得も問題なく行われますし、引越しも苦もなく 行われます。個人の場合には、自分でコンテナタイプのレンタトラックを運転 すれば、レンタカーの借り賃だけで引越しができます。街やハイウェイでは随分 とそのようなトラックを見かけます。
−家の選択基準−
まず、米国人の生活場所の移動は、通う学校の選択からはじまるようです。 早い人では、ハイスクール位から「自分のやりたい事」のできる学校を選び、
そのために親元を離れて、アパートや寮などで生活を始めます。 それは、大学に通う時もそうですのでこのあたりが、親離れのはじめです。
その時は、親からの援助はあまり期待でき無いのが普通だそうです。ですから
寮や狭いアパートで、家賃をケチりながら生活をします。そして無事卒業できれ
ば、次は就職です。仕事をするためには、その場所に行かないとなかなか就職
できません。ですから、自分のしたい仕事のできるところに、移動します。
確かに、大都市志向が無いとは思えませんが、選択肢は実に様々です。私の住む Charlotteは、中都市ですが、米国のNo4とNo7の銀行の本社がありますし、 あの格付け会社の「ムーディーズ」の本社もあります。その意味で、本社はほと んど「東京」という日本とは大きく違う経済構造になっている事がわかります。 ですから、人々は「住みやすさ」「仕事のしやすさ」をはじめの選択肢で選びま す。そこでは、まだあまり広いスペースは必要ないので、アパートや割と小さな 家に住みます。次に、結婚して家庭を持つ時には、やや広めの家を持ちます。 それには、仕事もしやすい便利なところが好まれるようです。 普通の、米国人には通勤時間が30分を超えるというと、それは大変だね、と 言います。住宅はそのようにして選ばれているし、実際にそのような物件も 沢山あるわけです。
次に、子供ができて、子育ての時代になると、「住みやすさ」のほかに「教育環 境」が、顔を出します。これは、学校のいいところに住むという事で、米国でも 就学児童のいるところでは、住まいを決める、第一条件といわれています。 そして、家の広さを問題にしてきます。家族が多くなると、個室も必要になりま すし、共通場所のスペースも広く必要になります。理想的な広さは一人当たり 50平米といわれるそうで、私の周りの家は、どれもそれを満たしていて、 しかも価格は20万ドル程度です。このような広さで、空調や台所周りは必要な ものがそろっていますから、住んでみると快適です。そして、そこで子育てを してゆくわけです。ここで、米国の税制が、ものすごく家を買いやすくしてくれ ます。まず、当然借金をして家を買うわけですから、はじめのうちの支払いは、 ほとんど借金の利息相当分になります。そのとき、借金の利息であれば、その分 は、所得から控除されます。これは、若い時にはとても大きな住宅取得のメリッ トになります。ですから、米国の人は早くから家を手に入れることができますし 借金をむしろメリットと受け止める感覚も感じられます。
そして、子供たちが大きくなり、家を出るようになると、再び住みやすい家を 探し始めます。この場合には、老後で税金が安く、治安が良く、気候が温暖で 医療機関が充実しているところを探します。アリゾナとかフロリダはそのような 意味で、人気があります。その時には家の広さはそんなに大きくなくてもいい わけです。
−家の流通−
私の住む住宅地でも、住んでいる人が良く変わります。そして、売り家の表示は
街を走ると、至る所に見られます。実感としてかなり頻繁に、家が取り引きされ
ているというのがわかります。そして、街のスーパーなどでは、無料の住宅情報
誌が、毎月配布されています。もちろんインターネットでの掲載もあり、探すと
身近なところに、沢山の売り家がある事が分かります。
−資産としての家−
米国での、家の考え方は「住むところ」としての「家」が中心です。日本での
「土地」を所有するという考え方はほとんど見られません。これは、家の値段の
決め方を見るとよく理解できます。米国では「きちんと手入れされた家」に高い
値段がつきます。買う人も文字どおり「家」を買います。ですから、人々は家を
持つと、実にこまめに「家の手入れ」をします。それは、住む上での必要性と、
後で売る時の価値を高めるためです。そして、外観や内部の手入れのよい家が、
高い価値を持ち続けるわけです。最近では米国も、家の値段が上がってきていま
す。NYCやサンフランシスコは、現在では日本の住宅価格と、いい勝負のよう ですが、それ以外のところは、年率数%程度です。その意味で、家に投資する
個人はあまりいないようです。
−まとめ−
米国での家は、一生の買い物というよりは、人生のタイミングに合わせた購入品
という感じが強いです。そして、必要に応じて自分に合わせた選択ができるシス
テムを取り入れています。あくまでも「住む家」を中心にしているところが、
合理的だと思います。 住む場所も生活のニーズに合わせて選択して、割合簡単に移動するなど、こちら
に来る前にはわからなかった事なども、はっきりしました。そして、使っている
家を手入れする事が、家の流通を円滑にする一つの要素である事もわかりました。
その意味で、家の流通市場というのは、選択と多様性を認める世界での、合理的
な帰結ではないかと考えています。
米国には、広大な土地があるということで、土地の価格が無視できる大きなメリ ットがあるのは本当にうらやましいです。しかし、もっと本質的にすごさを感じ るのは、ハイウェイや通信のネットワークがどこに行っても、充実しているので、 必ずしも大都会に行かなくても、仕事もあるしそれなりに住める設備やインフラ が整っている事です。ですから、実際に、在宅勤務や、個人オフィスなどがどん どんと広がりつつあります。これらの帰結として、生活のいろいろな場面で個人 個人が元気でいられる姿は、資産の合理的運用から来ていると考えるのですが、 いかがでしょうか。
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