Charlotte Weekly 1997.06.08.号 通巻 第44号
本は割り引き競争の時代
今週は、米国での「本」についてご報告します。観点としましては「価格」、 書店での販売方法などについての特色をまとめてみました。
−ベストセラーの本はでかい、重い、高い!−
まず、米国の本の特色は、ハードカバーのものが多いということです。 それでいて、紙の大きさも大判なものが多いです。日本ではB5版のものが主流
ですが、米国ではA4(正確にはA4ではありませんが)のものが多いです。 しかも紙質は厚めのものが多いですから、とても重たい本になっています。
今まで本の重さなどわざわざ計ったことはありませんが、多分1キログラムに
近い重さがあるでしょう。ベストセラーになっていると、そのようなものが書店
に山積みされて、ものすごく量的に迫力があります。本の値段は20−30ドル位
ですので、かなり米国では高い商品に属すると思います。私のところにも何冊か
つん読で置いてありますが、見栄えはいいのですが、一冊を読み通すのは、日本
語のものよりも20倍くらい時間がかかり、つん読の山は減りません。
−本は価格競争の商品−
米国では、書籍は価格競争のど真ん中にいます。すなわち、割引価格が売り出し
ポイントになります。これは、出版社というよりは、書店の価格政策に反映され
ますが、新刊書で20%から30%の割引きが普通になりはじめました。 特に、3年ほど前にインターネットに「AMAZON」という書店がが出てきてから
は、割引を売り物にシェアを広げて、今ではインターネット上で一番成功した
ビジネスとまでいわれる様になりました。
古くからある書店の「BARNS & NOBLE」という大手の書店も最近は価格対抗策
を出し始め、割引率の競争が始まりました。その意味で、本が自由価格という
商品の特性を遺憾なく発揮されているわけです。日本では再販制度で守られて
いるので書籍は定価でしか買えませんが、随分と違うところです。
−米国の本屋さんとはたき−
私は、日本に住んでいた時も本屋さんが好きでそのために、本屋さんに近い所へ
と引越しまでした事がありますが、米国の本屋さんはすぐ近くと言うわけには
いきません。モールと呼ばれるショッピングセンターの中にあります。比較的
品揃えのいい本屋さんは町中でも3-4軒です。私の住んでいるところからは 4-5Km離れたところにやっと最近「Barns
& Noble」ができました。それまでは 15Km位行かないと、本屋さんと呼べるものはなかったのです。やれやれです。
さて、「Barns & Noble」という本屋さんにはじめて入った時には、ちょっと
驚きました。床に座り込んだ子供や大人が、書店の本を棚からとって、そこで
読んでいるのです。もちろん床は普通のフロアですから当然土足で歩き回る ところです。それでも、書店の人は何も言わずに、そのままにしています。
こんな本屋さんの経営は考えられないことでした。しかし、あとから日本の 友人から送ってもらったカセットテープを聞いて分かった事ですが、店内にいる
時間と、お客の購買価格は正の相関があるので、書店の営業政策になるそうです。
なるほど良く見ると、読むための椅子も置いてあります。
日本では、立ち読みをしていると、はたきを持った店員が近づいて来て、棚の本
にはたきをかけはじめ、なぜか立ち読みしづらくなった経験を思い出しました。
−本を読む人々と、読書教育−
米国の人々が、家の中でどのように本を読んでいるかにつての実態は把握できて
いません。しかし、公共の場所での本の読まれ方を見ている限り、「米国人」
は本を読むことが好きなのではないかと考えます。(もちろん彼らはTVや映画
も好きですが)そのように考えられる理由をいくつかご説明します。
まず、学校での教育です。米国人は、多読の習慣がつくように教育されています。 例えば、学校でいろいろな調べものをするときは、分厚い本を読んでその中に 書かれていることを拾い出してゆくことが要求されます。これはかなり大変な 作業で、我が家の子供の宿題を見ると、時々(私たちにも)手に余るものも見受 けられます。すなわち、かなり長い文章を、時間をかけて読んだ上で、設問に 答えるタイプのものが多いわけです。ですから、提出直前に持ってこられると、 我々も教える事よりは、「なぜ今までこんな宿題がある事を、言わなかったのだ」 とかついつい、言ってしまいます。結構なボリュームです。
そして、そのような強制的な方法とは別に、授業の中での個人の趣味に合わせた 読書を認める学校教育があるようです。私の子供の通っている日本人補習学校の 教室(この校舎は現地の小学校の校舎を借用しています)を覗いてみると、教室 の壁には、もっと本を読もうというスローガンが貼られています。これは、現実 には読まない子供も多いので、そのために貼られているのかも知れませんが、 いろいろなジャンルを推奨しながら、積極的に読書させるよう指導している様子 がわかります。私たちは本が好きだ、こんな分野のものをたくさん読もう!と スローガンが貼られています。それからもっと上の勉強方法では、MBAの資格 を取る時にも、一週間に分厚い本を10冊とか読まされて、それをまとめるのが 勉強であったと言うような事も本で読んだ事があります。その意味では、まず 「全体をとらえる」事とその構成の解析に集中するのが一つの特色のような気が します。
日本の場合はどうなるかをちょっと調べるために、子供の国語の教科書を見て みました。作家の作品の全体を読んでから学ぶと言うよりは、作品の抜粋が多い 様に思いました。これは、教科書に記載された範囲を読んで、丁寧に細かい部分 を理解してゆくと言う事になりそうな気がします。これも大切な事と思いますが、 多読を併用しないと、部分解析だけが得意の人になってしまうのではないかと 危惧しました。
−そんな分厚い本なのに−
私が現実に米国人の読書の場所に出会うのは、主として交通機関の中です。 飛行機や通勤電車の中など、例の大きな本を読んでいる人が少なからずいます。
もちろん、新聞や雑誌などをよんでいる人も多いです。でも、あの分厚い本を かばんに入れてまで読むのは、並大抵の意気込みではできない事です。荷物も
多いのに、かさと重さがあんなにある本を一緒に持っていって読むのですから、
その体力・気力にはちょっとびっくりします。
どうも、ここでも日本と米国での全体と部分に関しての捉え方の特色が表れて いるようです。楽しく本を読み、正しく理解する事は人間の持つ能力の中でも 特別のものというような気もしますが、いずれにしろ、全体を知ると言うことは また、気力、体力、そして財力の必要な事だと実感するわけです。
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